弁護士の小野博道です。今日は、次の質問に対して回答したいと思います。
Q 最近相続法が改正されて,自筆証書遺言を預かってくれるサービスが始まったと聞きました。そもそも自筆証書遺言とは何ですか。預かってくれるのはどこですか。預かって貰えるとどんなメリットがあるのでしょうか。
A 遺言をする人が自分で作成する遺言を自筆証書遺言といいます。自筆証書遺言を作成するためには,民法で次のように方式が厳格に定められえています(民法968条)。
- 自分で作成する遺言を自筆証書遺言といいます。遺言を自分で作成する場合は,遺言者が全文自筆で作成するのが原則です。他人に代筆してもらうことはできませんし,ワープロやパソコンを使うこともできません。本人の意思が反映されていることがとても大切だからです。しかし,民法968条が改正され,2019年(平成31年)1月13日からは,遺言書に財産目録を添付したい場合は,この目録の作成だけは自筆でなくてもよいことになりました。この場合も,目録の各ページに署名押印する必要がありますので,注意が必要です。
- 遺言書には作成日付を記載しなければなりません。この場合,令和〇年〇月吉日などと記載すると,遺言が無効になりますので,普通に年月日を記載することが大事です。遺言書では作成日がとても大事な役目を果たします。ある人が亡くなって複数の遺言書が残されていた場合,遺言書は最後の日付けのものが効力を有するとされますから,「吉日」などと記載すると作成日が特定できなくなるので,無効とされるのです。
- 遺言書には遺言者が署名して押印する必要があります。印鑑は三文判でも構いませんが,朱肉を使う印鑑が良いと思います。朱肉なしで押印できる便利な印鑑もありますが,時間が経つと印影が薄くなって,見えなくなる可能性があるからです。
~閑話休題~
今年は新型コロナウィルス騒ぎが広がって,会社に出勤せずに,自宅でいわゆるテレワークで仕事をする会社員が増えているようです。
ところが,日本の多くの会社(役所も)では,書類に印鑑を押して決裁するシステムになっているため,せっかく自宅でテレワークをしていても書類に押印するために出勤しなければならないのか,ということが問題になりました。
そこで,日本の印鑑文化を見直してもよいのではという声や電子文書に押印する電子の印鑑もできたということです。
しかし,遺言書に押印不要とすることや電子文書の遺言などは民法の改正が必要ですし,かなり難しいのではないかと思います。
- 遺言書を作成していて,書き間違いをしたときの訂正の方法も民法968条3項で詳しく定められています。この方式に神経を使うくらいであれば,書き間違いをしたときは最初から全部書き直した方が安全だと思います。
さて,以上の方式に従って遺言書を作成しても,問題は完成した遺言書をどこにどのように保管するか,という問題が残ります。
せっかく作成した遺言書が,誰にも発見されないとか,誰かがゴミと間違って処分してしまっては,遺言書を作成した意味がなくなります。
また,極めてまれだと思いますが,保管が不完全だと,誰かが遺言書を廃棄したり,偽造や変造をする恐れも皆無とは言えません。
自筆証書遺言の保管についても民法の改正がありました。これが,本来のテーマですが,保管については,次回にお話しすることにしましょう。
蛇足
皆さんは「遺言」という字句をどのように読みますか。多くの人は「ゆいごん」と読んでいると思います。
もちろんそれで正しいのですが,弁護士など法律家は「いごん」と読む人が多いようです。
これも正しい読み方です。
ですから弁護士らは,「自筆証書遺言」は「じひつしょうしょいごん(・・・)」と,「遺言執行者」は「いごん(・・・)しっこうしゃ」と読む人が多いのです。